2013年04月19日
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三百字小説『鹿の魔球』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 魔球投手は卒業後に鹿になった。

 人間でいることに絶望して鹿せんべいを食って一生を終わろうと思ったからだ。

 ある日、昔の仲間が鹿を訪れた。

 「どうしても負けられない草野球の試合がある。魔球を投げてくれ」

 しかし、鹿は首を縦に振らなかった。「伝説は伝説のままにしておく方が良い」

 昔の仲間は、あの魔球はトリックではないかと疑った。そこで、強引に魔球を投げざるを得ない状況を作り出した。

 魔球は確かに実在した。

 球場はどよめいた。

 しかし、審判はルール違反を宣告した。

 「選手は人間から選ぶように。ペットを選手に登録するのは禁止です」

(遠野秋彦・作 ©2013 TOHNO, Akihiko)

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